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青森地方裁判所弘前支部 昭和27年(ワ)263号 判決

原告

中畑秀一郎

被告

小林雄司

主文

被告は原告に対し金一万八千円及び三千円に対する昭和二十七年十月二十五日以降昭和二十八年十月二十四日まで、六千円に対する同年同月二十五日以降昭和二十九年十月二十四日まで、九千円に対する同年同月二十五日以降昭和三十年十月二十四日まで、一万二千円に対する同年同月二十五日以降昭和三十一年十月二十四日まで、一万五千円に対する同年同月二十五日以降昭和三十二年十月二十四日まで、一万八千円に対する同年同月二十五日以降完済にいたるまで各年五分の割合による金員を支払うべし。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその二を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

この判決は原告に於て金二千円の担保を供するときは原告勝訴部分に限り仮りに執行することができる。

事実

(省略)

理由

被告が青森県試掘権登録第五五九五号の権利者であることは当事者間に争のないところ、原告は被告が右権利に基く掘さくにより原告所有地に与えた損害につき原被告間に原告主張の金五万円の契約が成立した旨主張し証人今義薫及び原告本人(一回)は右主張に副う各供述をしているが右各供述は証人木村健治、熊沢太及び小林雄康(一回)の各証言及び被告本人の供述に照らし真実に符合するものとして採用しがたく他に右主張を認めるに足る証拠はない。

よつて金五万円の契約が成立したことを前提とする原告の請求部分は理由がない。

次に原告の金三万円の請求部分について判断する。

被告が原告主張の頃原告主張の岩木村大字常盤野字黒森一番地四号山林二十二町四畝二十八歩内に鉱石運搬道路を施設したこと、右山林二十二町四畝二十八歩が原告外十四名の共有であつたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証並びに原告本人(二回)尋問及び検証の各結果を綜合すれば右山林二十二町四畝二十八歩は前示道路施設当時すでに各共有者に夫々分割されており右分割により原告の単独所有となつた山林部分のうち九十一坪五合が右鉱石運搬道路の用に供されたことが認められるところ、被告は右山林は依然原告外十四名の共有であり仮に原告主張のように分割されているとしても登記簿上は依然共有名義となつているから右分割をもつて原告は被告に対抗できない旨主張するけれども前示のように右山林は分割されているものであり又被告は後示のように不法行為者と認めるほかはないので原告は分割の点につき登記がなくとも被告に対抗しうるものと解すべきであるから右被告の各主張はいずれも採用することができない。

而して成立に争のない甲第七号証及び原告本人(二回)尋問及び検証の各結果を綜合すれば被告の前示道路施設にあたり原告主張の畑二反二畝二十歩のうち三十一坪をも使用したことが認められるところ被告は右各土地につき鉱業法第百四条による使用権を有するのみならず右使用につき原告の承諾を得たから被告は不法行為者ではない趣旨の主張をするけれども鉱業権者が鉱業法第百四条の規定により他人の土地を使用するについては通商産業局長の許可を得るか土地所有者の承諾を得る等使用権を取得しなければならぬこと鉱業法の条規に照らし明らかであるのに右許可を得たことにつき被告は何ら主張立証せず又土地所有者たる原告の承諾を得たことについてもこれを認めるに足る証拠がなく他に被告が右各土地を使用するにつき正当の権限あることにつき被告は何ら主張立証しないところであるから反証のない限り被告は少くとも過失により原告の右各土地所有権を侵害したものというべく被告においてたとえ前示のように試掘権を有していても右各土地使用につき不法行為者として原告の蒙つた損害を賠償する責任を免れることはできないものと解するのほかはない。

よつて損害額について案ずるに原告本人(二回)尋問の結果によれば前示道路が施設される以前右山林九十一坪五合上には立木が存立しており又右畑三十一坪が耕作されていたこと、原告は右山林につき年二千円畑につき年千円の各収益をあげていたことが夫々認められるところ証人小林雄康(二回)の証言及び原告本人(二回)尋問の結果によれば被告は右各土地を現在はもう使用していないが被告が鉱石運搬道路として前示各土地を使用したことにより原告は今日にいたるも右各土地を従前の用途に使用できず収益をあげえないでいることが認められるので、原告が右被告の不法行為時以降六年間にうべかりし収益は一万八千円となること算数上明らかであり原告は右六年間(昭和二十六年七月以降昭和三十二年にいたるまでの間)に同額の損害を蒙つたものと認めるのが相当であるから被告は原告に対し右金一万八千円を不法行為者として賠償すべき義務があるものというべきである。然るところ原告は本訴に於て右各土地の侵害による損害として被告に対し金三万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和二十七年十月二十五日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているのであるが前示一年当の損害三千円は年々生ずるものであり前示金一万八千円は昭和三十二年までの合計額なのであるから被告は右金一万八千円に対する遅延損害金としては金三千円に対する昭和二十七年十月二十五日以降、昭和二十八年十月二十四日まで、金六千円に対する昭和二十八年十月二十五日以降、昭和二十九年十月二十四日まで金九千円に対する昭和二十九年十月二十五日以降、昭和三十年十月二十四日まで、金一万二千円に対する昭和三十年十月二十五日以降、昭和三十一年十月二十四日まで、金一万五千円に対する昭和三十一年十月二十五日以降、昭和三十二年十月二十四日まで、一万八千円に対する昭和三十二年十月二十五日以降支払済まで各年五分の割合による金員を支払えばよいことになる。

果して然らば原告の本訴請求は主文第一項の金員の支払を求める限度において正当として認容すべきもその余の部分は失当として棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 駿河哲男)

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